LISN188（6月）号では、「専門書オーディオブックを作成する作業に従事することは、本好きの私にとってこれほど楽しい仕事はありません。」とおっしゃる兵庫県点字図書館副館長倉本志朗氏に、図書館での専門書オーディオブック制作の取組みのきっかけから、制作方法、大学や国立国会図書館との連携についてご執筆いただいています。改めて、兵庫県点字図書館のご活躍と専門書オーディオブック作成に込められた思いを読みといてみたいと思います。
読書のかたち
かねてより視覚障害のある方々の読書には、活字図書を音声で読み上げ、ＣＤやカセットテープに録音した、音訳（録音）図書などが利用されてきました。またCDやダウンロードから、専用再生プレイヤーや専用の再生ソフトウエアをインストールしたWindowsパソコンまたアプリで聞くデイジー図書は、世界共通の規格で広く利用されています。
また、近年「聴く本」と呼ばれ一般的に話題となっているオーディオブックは、本の朗読を録音したもので、ドラマＣＤやCDブック、ダウンロード式の音声ファイル、オーディオブック専用アプリなどから聴くことができます。紙の本や電子書籍のように手に取って目で読む読書と違い、イヤホンで読書ができるという手軽さから利用が広がっているようです。
LISN188掲載 倉本志朗「視覚障害者を対象とした専門書オーディオブックの制作と公開―兵庫県点字図書館の取組み―」 より
点字図書館の役割は、点字図書や音訳図書の貸し出しだけでなく、その制作も担っています。制作の目的は視覚障害児・者の学習環境を整えることです。兵庫県点字図書館では、利用者が必要とする書籍をできるだけ早く利用できるようにするだけでなく、様々な専門分野の本を提供することで、児童・学生が様々なことに興味を持ち、それに取り組み、進路を確保していくことを目指しています。
兵庫県点字図書館で制作するオーディオブックは、墨字の図書をテキストデータ化し、それをスマートフォンなどの機器を介して音声変換して音声認識システム等で読む形式の書籍です。既存の読書方法に加え、様々な方法で学習の手段、可能性を広げて、視覚障害児・者の方々の学習につなげていただくことを目的としています。
本をテキスト(Microsoft Word)にする
本を、電動裁断機で裁断しスキャナーで読み込ませPDF化します。この時、本文以外の箇所の削除、新たなページ設定などの加工を行い、OCRで読み込ませます。350ページ程度の本であればテキスト化するまで2時間ほどの処理時間です。
OCRは日進月歩で進歩していますが、まだまだ課題はあります。定型的な誤りをWordの置き換え機能などで一括修正し、ボランティアの方に目を通してもらい文のつながりがおかしい―、などを修正します。短時間で本の全体に目を通すことができ、ボランティアの方のメリットでもあります。
点字図書館とボランティアの役割分担
点字図書館で裁断から目次・見出しの整理、ルビの削除を行うとして、1冊8時間、それ以外の作業をボランティアに依頼することとし、月30冊の作成を目指しています。
大学との連携
県と県内大学の包括的な連携協定の一環として、オーディオブックの作成協力をしています。具体的な連携方法は、大学側が学生に勧める書籍の選定と、（現在はコロナの影響で中断していますが）学生ボランティアの募集です。書籍選定については、大学からデータの提供を受け、点字図書館で書籍を購入し、オーディオブックの制作につなげています。さらなる連携方法は今後の課題です。
オーディオブックの利用について
オーディオブックの情報は共有できます。国立国会図書館の未校正テキストや簡易校正テキストは一般の図書館や点字図書館で利用可能です。利用者の希望があれば各点字図書館等が未校正テキストデータに校正を加えることができます。さらにサピエ図書館に登録すれば、全ての視覚障害者の利用も可能となります。
またこれらの未校正テキストは、兵庫県点字図書館から直接視覚障害者の方にご利用いただくこともできますので、兵庫県点字図書館にお問い合わせください。
まとめ
倉本氏は、視覚障害児・者の学習環境を整えることに関わり、専門書オーディオブック制作に携わることで、ご自身が「幅広い分野の専門書に目を通し、様々な勉強ができることがとても楽しい」とおっしゃっています。こうした喜びを、一人でも多くの視覚障害者の方や子どもたちと共有し、未来への歩みにつなげてもらいたい、そうした思いが専門書オーディオブックには込められています。
「視覚障害者を対象とした専門書オーディオブックの制作と公開―兵庫県点字図書館の取組み―」 の全文は、LISN188（6月）号に掲載しております。
